美しい味を語る


第八回目のお相手 フードジャーナリスト、エッセイスト/向笠 千恵子さん

向笠 千恵子さん今回お迎えしたゲストは、名著『日本の朝ごはん』の著書であり、日本のスローフードの第一人者。食材、食の職人、歴史、民俗、器などさまざまな角度から食を考察しておられる向笠千恵子さんです。忙しい仕事の合間をぬって、ちょいと“さいと町”に立ち寄っていただきました。日本橋生まれの向笠さん、ちゃきちゃき節なのかと思いきや、語り口は意外にスロー。こちらの質問に対して、ひとつひとつ丁寧に時間をかけて答えてくださる姿勢、食にかかわる人間の一人として「いい加減なことは言えない」「こうだという断定や決め付けをしてはいけない」という真摯さと謙虚さがとても印象に残りました。そして、何気ない話題の中に、膨大なフィールドワークを積み重ねてこられた人にしか発することができない言葉がきらりと生きている。それがまた、向笠さんの著書に凡百のエッセイや旅行記にはない奥行きをもらたしているのだと感じました。向笠さんを紹介してくださったフードカメラマンの尾田学さんが、「向笠さんは対象に興味を持つと、どんどん入り込んでいくので、つい取材時間が延びてしまうんですよ」とおっしゃっていましたが、たまには逆の立場になるもいいですよね。楽しい時間をどうもありがとうございました。

日本の朝ごはんから始まった旅。

Ganko: 『日本の朝ごはん』が、実質的なデビュー作として考えてよろしいんですか?
向 笠: ええ。いわゆる自分の著書としてはそうですね。
Ganko: けれんみが無くて、素晴らしいタイトルですよね。この本を書かれたきっかけというのは?
向 笠: 本を書く以前から、日本中へいろいろなかたちで取材に出かけるようになっていました。旅に出れば、当然宿泊いたしますでしょ?どうせ泊まるのなら、予算内で最高においしい食事が出るところっていうふうに情報を集めたくなるじゃないですか。そういう繰り返しのうちに、能登にある〈さか本〉という小さな宿を見つけたんです。
Ganko: 『日本の朝ごはん』で、いちばん最初に書かれている舞台ですね?
向 笠: そうです。そこの朝ごはんが本当に素敵だなって思って。家庭の朝ごはんというのは、ごくごくプライベートな食卓であって、どんなに親しくとも、たとえ親戚関係であっても、なかなか覗けないじゃないですか。で、その部分を知りたいなあって、自分の中で興味がどんどんどんどん高まっていったんですね。
Ganko: それで、〈さか本〉さんのことを。
向 笠: とにかく書きたくなって。でも一箇所だけだと、さか本リポートになってしまうし、他の朝ごはんにも興味がつのってきて・・・。あそこの魅力っていうのは献立を構成している卵であり、海苔であったり、お米であったり、ひとつひとつにおもてなしの心があるところなんですね。よくご馳走っていいますけど、まさしく駆けずり回って集めてきたものを召し上がっていただきたいという心にあふれている。
Ganko: いいですねぇ。
向 笠: それと、〈さか本〉さんは親子でやっていらして、もちろん仲がいいんだけれど、息子さんの方が「お母ちゃんのは、くどいしつこい田舎の味だから・・・」といったような親子の率直な言い争いとか、何回かうかがっているうちに素顔の部分が見えてきて。そこの中に入って、女中さんの気分で見ると面白いかなっていう感じがしましたね。向笠版“家政婦は見た”というか・・・(笑)。
Ganko: なるほど、あれは女中さんの視点だったんですね。でも、その視点がとても新鮮ですよね。食べ物の本って、どうしてもすました部分だけを描いている場合が多いですもんね。ところで、あの本に登場されている方々っていうのは、とてもよく人間が出ていると思うのですが、取材にはわりと協力的だったんですか?
向 笠: いや、それはもうタイヘン(笑)。
Ganko: やっぱり。
向 笠: 息子の坂本さんって、かなり人見知りで、ある意味で天才で、それゆえ・・・。
Ganko: ヘンクツ(笑)
向 笠: いい意味で、こだわっている人たちにはそういう一面ってあるでしょ。それに、別に書いてもらわなくたっていいわけで。そこを書きたいというのは、こちらの勝手な希望なわけで。
Ganko: ふむふむ。
向 笠: それまでも単なる旅館取材というのはたくさん受けていらっしゃるわけじゃないですか。逆に言えばいろいろと踏み込まれてうっとうしい。そのへんのまあ、心を許していただくまでのプロセスがまたわくわくするんですよね。
Ganko: それ以降は朝ごはんっていうのがひとつのテーマになっていて、世界がどんどん広がっていくんですよね。
向 笠: あの本を書いてみて、いかに自分が日本人の朝ごはんについて、ひいては日本人の食のありようについて、なんにもわかっていなかったかということを思い知ったんですね。それで次は朝ごはんを構成している食材に焦点を絞って、ひとつひとつ現場へ行かなくちゃと!
Ganko: 結果的に、時代を先取りしたテーマになりましたよね。
向 笠: 時代の流れがね、たまたま合っていた。スローフードという言葉はまだ日本へ入ってきていなかったんですが、食品の安全性の問題をはじめ、いろんなことがこの10年くらいの間に変わったでしょう。お子さんがアトピーのママのご苦労とか、成人病の問題とか、身内の間で癌になったとか、環境と食べものによって体が左右されるっていう不安が20年前とは比べものにならないくらい起こってきたじゃないですか。どれがほんとに安心して食べられるか、一部の先端的な消費者運動の方だけじゃなくて、誰も思うようになっていった。そういうときに何か、私自身の中でもその方向のテーマに向かっていたのが、時代と重なったんだと思います。共時性というのでしょうか。
Ganko: 生産者の方に話を聞かなきゃならないというのは、最初からのお考えだったんですか?
向 笠: 私は、自分でいうのもなんですが、人間に対する興味が強いんですね。フィクションよりも実人生の方が断然面白いなっていう経験を積んできたので、食材のことでも、ごく自然にそういう方向に。
Ganko: 相手がどういう人かって、最初はわからないじゃないですか。すごい偏屈な人だったらどうしようとか。どうやって生産者の懐に入っていかれるんですか。
向 笠: いろいろありますけど、どういうお宅でも、だいたいお座敷に、一家の歴史が分かるようなものが飾られていたりするじゃないですか。
Ganko: 白黒の肖像写真とか。
向 笠: そうそう。「これはどなたなんですか?」そんな質問をしているうちに、どんな山奥に入ってもそこは人間同士ですから、親しみが生まれてくる。それからですよね。
Ganko: 期待はずれだったケースとか、ちょっとイマイチかなと思ったケースもあるでしょうね。
向 笠: でも、高級な懐石料理屋さんやフレンチレストランへの期待して出かけて行って、「なあんだ、この程度」というがっかりとはまったく違います。産地は、鮮度が最高なので素材をいかした料理なら何でも必ずおいしいんですよ。
Ganko: そうでしょうね。
向 笠: だから、私はいつも隠れているいいところを探すようにしています。それはどこでも誰にも必ずあるから。

志のある生産者の時代へ。

Ganko: たくさんの生産者の方々と接して、どんなふうに感じられました。喜びとか、ご苦労とか。
向 笠: それはやっぱり、易きに流れる方が簡単なんですよ。日本は、農業で言えば、必ず農家は農協に所属しなければならない。そこから、指導員の方がこの作物はこういう風にしてとか、肥料はこれとか、農機具にしても供給される。その中のひとつの歯車として動いて、そのことにそんな疑問を持たなければ・・・。
Ganko: それはそれでやっていける。
向 笠: でもやっぱり、これでいいのかと思う人たちがいらっしゃるんですね。自分に正直に生きたいとか、自分の心に素直に生きたいと思う人たちが。
Ganko: 何かそうなるきっかけってあるんですか。
向 笠: ひとつのきっかけとして、お子さんっていうことがよくあるんです。それは「お父さん、うちは植物とか生き物をつくっているのに、どうして虫が飛んで来ないの?」とかごく素朴な声であったり、急に近所の仲間が医者通いをはじめて、思い当たるのが、農薬の散布を盛んにするようになった頃から現象が起きてるとかね。そういうことに気付く方っていうのが、どんな土地にもいらして、率直に疑問を行動に移していらっしゃる。私には、神様が遣わしているとしか思えないんですけど。
Ganko: うんうん。
向 笠: ほんとに素敵だなって思う生き方をされている生産者の方には、必ず支持者が出てきます。たとえば、岩手県の三陸海岸に面した岩泉町で、自然放牧で乳牛を買い、自分で借金をしてつくった自社プラント、ミルク工場で瓶詰めして殺菌して自分のルートで販売を始めてる生産者がいるんですね。中洞さんという方なんですけど。
Ganko: へー。
向 笠: 中洞さんが、なぜそういうことを始めたかというと、たとえば牛の健康を気にかけて、いろんな愛情をかけて育てて絞ったミルクでも、タンクローリーで集められて、その地域の経済連が集めてきた普通の牛乳とブレンドされ、誰が作ったかもわからずに出荷されてしまうっていうこと。乳牛の方もホルスタインが経済動物っていう観念のもとに、とにかくたくさん乳量が出るように品種も改良されているし、たくさんおっぱいを出させるためにはこういう飼料を与えなさいとかいう指導のもとに育てているんです。でも、どうしても体に無理がくるから体調が悪い。そうすると今度は、薬を飲ませてとか。
Ganko: うーん。
向 笠: 毎日朝晩、牛と向き合いながら暮らしている酪農の方たちは、矛盾だらけの中で頑張っているんですね。そうするとやっぱり、健康的に育てたいなとか、自分が育てた牛のおっぱいは自信を持って、殺菌もやって、ボトリングして、消費者に届けたいと思うのは当然だと、人情としてわかるんですよね。中洞さんのような人々は、それを、周囲の圧力をはね返しながら実行しているんです。
Ganko: 大変な勇気と苦労でしょうね。
向 笠: だけど、そうやって支持者が増えて、マスコミに取り上げられるようになると、今度は行政としても支持をせざるをえなくなるんですよ。こんなふうに、とにかく行動で表わしてきた方々が、現在認められるかたちになってるんじゃないかなと思うんですね。
Ganko: 以前はアウトサイダー的な存在だったのが、段々認められて、理解されてきた。
向 笠: そうなんですけど、最近はそれがビジネスとして賢いっていう方向に向かって、最初にソロバンありきという傾向が現れています。
Ganko: 向笠さんとしては、そういう方向っていうのはどうなんですか?
向 笠: 大きな流れとしてはいいと思っています。そこから始まって、次のステップに行けばいいわけですしね。先日も札幌にオープンしたばかりのホテルに取材に行ったんですけどね。そこはお料理、食材、全部北海道産、いわゆる道産子の食材を使っているっていうのをメインに売り出していて。バイキング形式の朝食のパンなどもね、北海道産小麦のハルユタカとか、普通の、いま東京に暮らしているとピンとこないような小麦粉。だけど、それは北海道産っていうレベルであって、農薬の使用基準うんぬんとか、そこまではまだ目配りされていません。でも、消費量がすごい。そういうところが動き出したのはうれしい・・・。
Ganko: 少なくとも無関心状態でガーっと大量生産されている時代よりは、ちょっと良くなっているってことですよね。
向 笠: はい。いま大手の食パンメーカーさんなんかでも100%輸入の小麦じゃないですか。そういう小麦粉を使っても不思議じゃないような大手ホテルの朝食が、北海道の小麦粉を使うようになり始めた。焼そばとかラーメンの麺も、北海道産の小麦粉。そういうことになれば、地域の生産者は、頑張ってやろうって気持ちになるわけですから。やがては自給率も高まっていくんじゃないかっていう予感がします。
Ganko: そういういい方向の動きに対して、逆の動きはありますか?
向 笠: 地球の温暖化現象ですね。魚は獲れなくなってきているし、ほんとに心ある生産者、農業も林業も漁業の方たちは、あと何年かたったら、この国の食はどうなってしまうんだろうっていう危機感が高まっていますね。
Ganko: ほんとにそうなんですか。
向 笠: はい。データ的にそうですし、魚だけでなく昆布とか若布も獲れなくなってるし、本当に日本各地の漁業関係者は真剣に大変だと言っています。かつお節もね、生きた鰹でつくっているところはほとんどもう消えていて、本枯節をカビつけしてつくっているところも、原料は冷凍の鰹になってますね。料理のプロの鉄人たちが命のだしとかおっしゃって、かつお節の関心が高まったのはいいんだけれど、やっぱり現実は、ソフトな削りやすい、枯れさせてない、燻すところまではやっているけれども、その後のカビつけはしないかつお節の方が需要があって。売れないから、カビつけの手間のかかる本枯節はやらないという生産者が増えています。
フードジャーナリストとしてできること。

Ganko: お仕事の中では、お取り寄せガイドの推薦もされていますよね。それは、この食べものはご自分が自信を持って皆さんに紹介するっていうことの裏返しだと思うんです。それを、どうやってジャッジされるのかなって思って。たとえばたくさんのお醤油で「これ!」というのを選ぶのは、すごく勇気のあることじゃないですか。
向 笠: それについては私自身もいつも悩むところなんです。結局、味覚って、最終的には個人の嗜好に判断されるから、一人の人間がどんなに努力して食べたり取り寄せしてみたって限られてますよね。でうから、これは、あくまで私が出会っておいしいと思うものですよっていうスタンスなんでね、私は。
Ganko: やっぱりそうですよね。最低限の基準っていうのは、お持ちなんですか?たとえば食品添加物無添加だったり、生産者の人柄が良くないと駄目とか、そういうのはありますか?
向 笠: まあ、本に載せさせていただくっていうのはへんですけど、取材したけど書いてない食べものっていうのもいろいろあるんですよ。掲載させていただいているっていうのは、もし直接読者が訪ねて行かれて、会っていただいても素敵な人たちですよっていう、向笠なりのひとつの絞り込んだ結果の解答でもあるんですよね。
Ganko: なるほど。
向 笠: たとえば、私がいま醤油について持っている知識を3だとすると、その後の取材を重ねながら、またその後ほかの醤油屋さんに行ったりして、どんどん情報や知識が増えていくわけじゃないですか。生産者の方だって二十代の時に取材を受けたときと、その後では違ってくるでしょうし。十年前だったら、国産大豆を入手するのは大変だったけれど、現在は比較的地元でも作られるようになったとか、いろいろ条件が変わってきます。私はやっぱり進行形で、生産者の方もいい方向に頑張っている人だなと思う人について書いているので、本が出たあとも交流しながら「どうしてこれ入れてるの?」とか「いまの時代はもっとあれじゃないの?」とか正直に言って、その本が増刷になるときや新改訂版になるとか、単行本から文庫本になるときに、そういう部分を読者にお伝えすることで、許していただきたいと思っています。
Ganko: よくわかりました。でも、すごく素晴らしいなと思うのは、向笠さんを通じて繋がっている輪が生まれているじゃないですか。うどん屋さんでしたっけ、向笠さんの紹介した沖縄の塩をすぐに取り寄せて使っているというのは。
向 笠: ああ、白河の鈴木(倶子)さん。彼女は、どんどんいろんな食材を試していらっしゃいますね。「今度讃岐の方に行くんですけど、何処へ行ったらいいでしょう」とか、ほんとに熱心です。私なんかが、食の生産者の方たちを見て羨ましいなと思うのは、「作っているものに手応えはある」って言い方をされるところ。思わず自分の仕事を虚業に感じちゃう(笑)。でも、自分がちょっと書かせていただいたり、お話したことで、そういう方々が仕事で迷ったりされたときに背中を押す役をしたり、踏み出される力になれて、より素晴らしい食べものをつくっていただく。そういうのがなにより嬉しいですし、生き甲斐というような気がするんです。

お江戸日本橋、そして海苔談義。

Ganko: 向笠さんは、日本橋の出身でいらっしゃいますけど、この場所への思いのようなものはありますか。
向 笠: そうですね。この数年くらい、食べものの伝播の道筋を取材しておりまして、つまり食の街道を歩いて、日本橋ってすごいところなんだなとあらためて思っているところです。
Ganko: どういうところがですか?
向 笠: たとえば九州にシュガーロードっていうのがあるんです。砂糖街道。長崎を起点に北九州の小倉までの長崎街道の異名です。海外から運ばれてきたのが出島に入って、そこから江戸時代唯一砂糖が運ばれた道が、この長崎街道だったんです。そこでは、道沿いの人たちに、ここを通る砂糖は日本橋に向かって運ばれていくんだっていうのが、その時代から口づてで伝わっていたんですね。
Ganko: へー。
向 笠: それから銚子の醤油の道を調べておりますとね、紀州の黒潮に乗って房総に着いた醤油の伝播の道筋が、今度利根川沿いに、日本橋の堀までのびているんですね。銚子のヤマサ醤油さんの工場敷地内には創業記念の大壁画があるんですけど、終点は日本橋なんですよ。醤油の大きな樽を積み込んだ帆船が、利根川を下って日本橋の岸辺に荷揚げしているところで終わっているんです。そういう感じで各地、地方に出かけていくと、東京を離れていても日本橋とよく出会うんですね。私は日本橋が原点なものですから、余計に気が付くというか、他県ご出身の方が同じ取材をしても、他の方は反応されない部分だと思うんですけど。逆に日本橋を客観的に見られてとても面白く思っています。
Ganko: 最近は東急百貨店の跡にコレドができたりして、この界隈もものすごく変わってきていますが、まだ日本橋の風情を感じられるような場所や物ってありますか。
向 笠: この界隈で言えば、〈さるや〉さんの粋な楊枝かしら。江戸情緒がいっぱいな、そういうものに安らぎを感じるんです。
Ganko: 〈さるや〉さん、いいですよね。日本橋には、私の幼なじみが働いている山本海苔店もあるんですが、海苔はお好きですか?
向 笠: もちろんですよ。一時ほんとに海苔のことが、気になってしかたがないときがあったんです。自分が日常何気なく食べているのに、海藻からできているってことを忘れているなってことに、あるとき気が付いて。江戸前海苔の実情さえもわかっていないし、行かなくちゃと思って。誰のためにというんじゃなくて、自分で見たいなぁって。
Ganko: 海苔の採集までやられたんですよね。
向 笠: そうですよ。小さな採取船に乗せていただいて。東京湾にも胸までのゴム長靴で入りました。自分で干してもみましたよ。生海苔を分けていただいて。バクテリアが繁殖するっていうので、帰ってすぐ。だけどもう日が暮れるころになっちゃってね、一晩おくわけにいかないので、平ざるに取りあえずは並べて、夜干し(笑)。ベランダでやると、ほんとにゴワゴワの岩海苔みたいのができましてね、プロのお仕事ってほんとに凄いなってあらためて思いました。
Ganko: 海苔は足が早いですからね。
向 笠: 早いですね。だから海苔とか昆布とか海藻をあつかう漁師さんは加工の仕事が本当に大変で、採った後が大仕事。夜なべ仕事で、家族あげてやらないと。その部分が、消費者にはほんとに見えなくて。
Ganko: そうですよね。
向 笠: 機械化されて、いかにも楽そうだけど、ものすごい騒音の町工場のような大型乾燥機に、漁師のおかみさんははりついて、微妙な厚みの管理だとか、温度調節とかをしないといけない。一回に乾燥する単位がすごいですから、下手すればロスをすごく出すわけですよね。そういう海苔づくりのご苦労が、私たち消費者は本当に気付いていませんね。
Ganko: 山本海苔店の社長さんから分厚い『海苔の歴史』っていう本を借りて、まだ三十ページくらいしか読んでないんですけど、日本古来からある食べ物はほんとに少なくて、海苔はそのひとつだって書いてあったんですよね。ですから日本人にとって、海苔はほんとに・・・。
向 笠: 機械化されても、その時代に書かれてるのと、ほとんど同じ工程をしているんです。
Ganko: そうなんですか。変わってはいないんですか。
向 笠: はい。そこから生まれる、海苔の、なんとも言えない、陰影に富んだ黒い食べものの素晴らしさ!
Ganko: 単純な黒じゃない。
向 笠: それなのに、ビジネスホテルとか、普通のお宿で出てくる朝ご飯の海苔があまりにもひどいレベルで、あんなものならもう出さないでくださいってお願いしたくなる。あれを朝から見ると、ほんと気分が悪くなりますね。ひどい海苔が出ると。
Ganko: もう色も何もない海苔もありますからね。
向 笠: あれは4番摘みとか5番摘みくらいの。もう色が出ない海苔ですね。
Ganko: 残念ですよね。
向 笠: ほんとに残念ですよ。アサクサノリ種の、焼きたてのサクサクっとして口どけのいい海苔が日本にはまだあるというのに・・・。そういう海苔をいただくと、もう・・・・・幸せです。
Ganko: たまらないですよねぇ。ああ、良かった。向笠さんが、海苔好きな方で。